岩波文庫「古事記」(倉野憲司校注 1962)の巻末「解説」に以下の記述がある。
古事記(序文、または序文も本文も)の和銅成立に疑いを抱き、これを後の偽作であるとする説をなすものがある。 それを列挙すると次の通りである。
賀茂真淵(宣長宛書簡)
沼田順義(「級長戸風」の端書)
中沢見明(「古事記論」)
筏勲(「上代日本文学論集」、「国語と国文学」第三十九巻第六・七号)
松本雅明(「史学雑誌」第六十四編第八・九号)
これらの説は、、その論旨や論拠は必ずしも一様ではないが、一応もっともな疑問と思われる点を含んでいる反面、明らかに誤りと認められる点や論拠の薄弱な点も多く、今日これらの儀諸説を是認する人はほとんどないと言ってよい。
特に上代特殊仮名遣からすれば、古事記がなら時代の初期に成立したことは疑い無いとこれである。
ただし、偽書説が提示した正当と思われる疑義については、これを十分に取り上げて解明する努力が必要であろう。