多数党に有利な「選挙制度・大手メディアの報道」が、世論・選挙・政治をゆがめている!
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政治の民主化を!
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2010年6月10日木曜日
「一九二八年三月十五日」から 2
小林多喜二:1931年、杉並区馬橋(まばし)の自宅で
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http://www.aozora.gr.jp/cards/000156/files/49394_33663.html から
(前略)
子供が生れてから、生活は尻上りに、やけに苦しくなつてきた。そんな時になつてどうすればいゝか分らなくなつた工藤は、自分とお由とで行李を一つづゝ背負つて、暗くなつてから村を出てしまつた。暗い、吹雪いた、山の鳴る夜だつた。そして北海道へ渡つてきた。
小樽で二人はある鐵(鉄)工場に入つた。が、北海道と内地とは、人が云ふほどの大した異ひはなかつた。こゝも矢張りお由達には住みいゝ處ではなかつた。では、何處へ行けばよかつたらう。だが、何處へ行くところがある!(後略)
「本当、どうにかやつて行けるから。」
お由は夫の顏を見て、もう一度さう云つた。夫はだまつて、うなづいた。
戸がしまつた。お由は皆の外を行く足音を、しばらく立つてきいてゐた。
自分達の社会が來るまで、こんな事が何百遍あつたとしても、足りない事をお由は知つてゐた。さういふ社会を來させるために、自分達は次に來る者達の「踏台」になつて、××××にならなければならないかも知れない。蟻の大軍が移住をする時、前方に渡らなければならない河があると、先頭の方の蟻がドシ/\川に入つて、重り合つて溺死し後から來る者をその自分達の屍を橋に渡してやる、といふことを聞いた事があつた。その先頭の蟻こそ自分達でなければならない、組合の若い人達がよくその話をした。そしてそれこそ必要なことだつた。
「まだ、まだねえ!」
さうお由がお惠に云つた。 (後略)
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留置場は一杯になつてゐた。(中略)
「ねえ、法律にはかう決めてあるんだよ。日出前、日沒後に於ては、生命とか身體とか財産に對して、危害切迫せりと認むる時だ。又はさ、博奕、密淫賣の現行ありと認むる時でなかつたら、そこに住んでゐる人の意に反してだ――どうだ、いゝか――現居住者の意に反して、邸宅に入ることを得ず、ツてあるんだ。それを何んだ、夜中の寢込みを襲つて! それに理由も云はずに檢束するなんて! ××はこんな事をする處だよ。」
勞働者達は一心に聞いてゐた。そして、畜生、野郎、と叫んで、足ぶみをした。
龍吉は興奮してゐた。「所が、どうだ、憲法にはかうあるんだ、憲法にだぜ。――日本臣民は、だ、法律によるに非ずして逮捕、監禁、審問、處罰を受くることなし。俺達は、ところがどうだ。ちアんと正式の法律の手續をふんで、一度だつて、その逮捕、監禁、審問を受けたことがあつたとでも云ふのか。――このゴマカシと嘘八百!」
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